チャリの呼び声

教員の仕事や趣味の自転車等について(新しい自転車が届くまで部活動死ねブログ)

暴走する"部活強豪校"で起きていたこと

私が初めて教壇に立ったのは30歳の9月だった。8月いっぱいで前の仕事を退職して、臨時的任用教員として埼玉へ引っ越してきたのだった。今から8年くらい前になるだろうか。

 

そこは埼玉県の伊奈学園総合高校というマンモス校で、1クラス40人×20クラス×3学年=2400人もの高校生が在籍していて、それに加えて1クラス40人x2クラスx3学年=240人の中学校が併設されていた。

そこは所謂"文武両道"の学校で、当時の偏差値は確か62位だったと記憶している。

敷地のいたるところに、【○○部代表○○さん、○○大会○位!】と、部活動の"盛んさ"を誇示するのぼりやら垂れ幕が飾られていた。

 

その"部活が盛ん"な伊奈学園において、最大の規模を誇るのは吹奏楽部で、部員は高校生だけで200人以上。それに相当数の中学生が在籍していた。

 

授業を受け持つようになってしばらくして気づいたのだが、授業中に突っ伏して死んだように寝ている生徒のほとんどが吹奏楽部員なのだ。

伊奈学園には音楽科の生徒も在籍していたが、英語の時間であるのに、英語を専門として学ぶはずの外国語科の生徒も突っ伏して寝ている。彼らもまた英語ではなくて、吹奏楽部に入りたくてこの学校に入ってきたのだった。

またその寝方も尋常ではなく、起こしても起きられない。生きるために寝ているような寝方であった。

 

それもそのはずで、私が朝出勤するとすでに数十人の吹奏楽部員が金管楽器を担いでフォーメーションを組み代えながら演奏する練習をしている。

今日は疲れたなと、20時過ぎに校舎から出ると、ハンカチ一枚をレンガの階段に敷いた上にミニスカートの女子高生が座り、ラッパを吹いている。そのときは真冬で2月ごろだったと思う。

聞いたところによると、20時までが公式に練習であり、その後はパートごとに分かれての"自主"トレーニングが始まり、本当に解散になるのは22時過ぎになることも全く珍しくないとのことだった。

 

この非人間的な長時間練習は成績にも致命的な影響を与えていた。頭にきて数えてやったのだが、正確な数字は失念してしまったが、全校生徒で成績不振者(評定1を持つ生徒)が100人とかそれ以上居たと思うが、そのうちの1/4、25%がなんと吹奏楽部に所属していた。25%は確かな記憶である。

規模が多いのだから同様に成績優良者も多いはずだとそっちの人数も数えてやったが、なんと2人しか吹奏楽部所属の生徒が居なかった。

大体同じ規模の運動部であるサッカー部はどうかと、そちらも数えたのだが、成績不振者と成績優良者の比率は半々であった。

 

この学校の吹奏楽部に入ると馬鹿になるというのは、成績会議資料に基づく統計学的な事実である。

 

ある日の職員会議で、生徒の学力が上がっていないという調査結果と、生活調査アンケートの結果がグラフ化された資料が同時に配布された。

 

生活調査アンケートというのは、生徒に対して実施している日々どう過ごしているかという調査で、何時に起きて何時に寝て、どの程度家庭学習に時間を使っているかなどを調べるものだ。

その集計結果は、帰宅時間が23時を越えている生徒がたくさん居ることや、家庭学習の時間が平均1時間を切っていることが示されていた。

 

教員だけで200人以上いる学校なので、その会議室には大人が200人位いたわけだが、いやーなんで勉強しないんですかねぇ、と言った有様で、部活動のやりすぎで成績が伸びていない、と2つの資料を関連付けて、部活動を批判するものは居なかった。

 

教員免許は大学を出ていないと取れないはずなので全員大卒だったはずなのだが。

 

当時は初心で、ここまで教員が部活ジャンキーの異常者ばかりだと知らなかったので、親しかった教員に、こんなの顧問の責任じゃないですか、といったことを聞いたのだが、返答は大体こうだった。

 

でも顧問の宇畑先生は丁寧な人だよ。部員が悪い成績を取ると担当の先生に謝りにきて、何をやってるんだ!とその生徒を叱るんだよ

 

眩暈がした。何が丁寧だ馬鹿野郎。

 

これは混じりっけなし100%顧問のパワハラである。

毎日22時とかまで練習をさせて、朝は7時から学校へ来させておいて、一体生徒は、いつ勉強できるというのだ。

全体の成績不振者の25%を自分の部活から出すという不祥事を引き起こしておいて、自分が責任を感じるのではなく、部員を叱り飛ばすとは。

私はこいつが許せないので実名で書かせてもらう。文句があれば訴訟でも起こせば良い。こいつのやってることは児童虐待だ。少なくともアメリカならそうだ。今思い返しても腹が立つ。

 

吹奏楽は外部のコンサートホールを借り切って演奏会をやるのだが、大喝采を浴び、部員の演奏でこの顧問がスバルを熱唱する姿を覚えている。たくさんのOBが手伝いに来て、5人も6人も居る副顧問も休日に借り出されていた。部活は、カルトだ。

 

なぜこんなことがまかり通るのか

 

それにこの国の部活動が抱える問題が詰まっている。

 

この顧問は、ご丁寧に自分でインターネット上に公開しているので転記させてもらうが

 

1984年埼玉県立伊奈学園総合高等学校に第1期生として入学。武蔵野音楽大学器楽学科・管打楽器専攻(トランペット)を卒業。吹奏楽部の指導者として吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテスト、マーチングコンテスト、全日本高等学校吹奏楽大会in横浜などの全国大会に出場。平成10年には埼玉県教育長より、平成18年には全米吹奏楽指導者協会(NBA)より表彰を受ける。また、平成24年には全日本吹奏楽連盟より長年出場指揮者表彰を受けた。現在、埼玉県立伊奈学園総合高等学校音楽科主任、埼玉県吹奏楽連盟副理事長 

 

自分が伊奈学園の最初の卒業生として卒業したあと、大学を出て、ここは書いてないので伝聞だが、すぐに教員として伊奈学園に帰ってきた。そしてこのプロフィールがのった本が出版されたのが2017年なので、25年間近く吹奏楽の顧問として居座っている。

 

校長の任期などせいぜい4年である。25年も居続け、部員を200人以上抱え、多くの生徒や保護者が吹奏楽目当て、つまりこの顧問目当てに入学してくる学校において、誰がこの教祖様を否定できようか、ということだ。

 

私たちは公立の教員であり、定期的な異動が定められている。通常6年程度、長くても10年程度で異動になっていく中、なぜ25年も同じ教員が居座っているのか。

 

簡単な話だ、いったい誰がこいつの後釜をやりたいというのか。

 

こんなカルト部活の主顧問になれば、毎日朝は7時から夜は23時まで学校に居る羽目になり、それを拒否すれば、前の先生はそこまでやってくれたのに、とクレームを受けることになる。吹奏楽部の思春期の女子高生が100人とか居れば人間関係のいざこざは日常茶飯事であり、何人も居る副顧問に指示を出しながらすべてをコントロールしなければいけない。

 

後釜が居ないので部活つぶしますというわけにもいかない。部活は客寄せパンダであり、合格者だけでも200人が吹奏楽目当てで入学試験を受けてくる。そんなものをつぶそうものなら影響は計り知れない。

 

もはや校長でも県庁でもコントロールできないのである。そもそも問題視すらしてないかもしれないが。

 

今から6ヶ月前こんなニュースが流れたのを覚えている。

吹奏楽部の部員が自殺、長時間練習「過労死ライン超え」が背景に? 第三者委員会が明らかにした千葉の強豪校の実態

配信

 千葉県柏市の市立柏高で2018年12月、吹奏楽部に所属する2年の男子生徒が自殺した。市の第三者委員会が今年3月末に公表した調査報告書は、自殺の直接的な原因は特定できなかったとする一方、背景として部活の長時間練習を挙げ「授業時間と合わせると過労死ラインをはるかに超える。過多であったことは明らかだ」などと指摘。吹奏楽強豪校の過酷な練習実態を明らかにしただけでなく、学校側のずさんな対応も批判した。(共同通信=田中亮佑)

 

伊奈学園の吹奏楽部といったい何が違うというのだ。

 

人間は、我こそが正義であると大義名分を背負ってしまった時、もっとも正気を失いやすく、また残酷になりやすいものである。

 

部活が神聖不可侵な、純然たる善なる聖なる行いということになってしまったとき、止める者が誰も居ない暴走状態に陥る。

 

その結果、最悪誰かが命を落とす。ある時は教師で、ある時は生徒である。

 

この小さな島国の、そのまた小さな学校から出たことのない者たちよ、

 

正常な国では、夜の21時まで未成年者を家に帰さなかったら児童虐待である。

子供は家族と夕食を囲むものだ。それが人の営みだ。

こんな馬鹿な国の中でもさらに頭の狂った学校現場で常識かどうかなんかしらん、世界的に見て気が狂っているのはお前たち部活動顧問だ。

 

大学を出てもそんなことも判断できないお前たちは教職につく資格はない。馬鹿め。

 

 

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ついでに言わせてもらえば、伊奈学園総合高校の吹奏楽部が金賞を取れるのなんて至極当たり前の話である。

ここまで人生を捨ててすべてを吹奏楽につぎ込めば金賞なんて取れて当たり前だ。

これはネットゲームに人生をかけ、ゲームの中で英雄になるのとなんらかわりない。

前者は褒め称えられるが、後者は廃人と呼ばれる。