チャリの呼び声

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『キャンセルカルチャー アメリカ、貶めあう社会』を読んで

バイデン大統領が当選する前だっただろうか、当時私が読んでいたTIME誌には選挙の争点の1つとなっていた妊娠中絶に関する記事が沢山載っていた。

TIME誌はいわゆる"左派"に属するメディアなので、反トランプであり、中絶禁止反対の立場をとっていた。

誌上では何人もの中絶経験者の女性が自分の体験を語っていたが、私が気になったのはあるアスリートの体験談で、自分は中絶をすることができたのでスポーツ選手としてのキャリアを続けられた、ということを語っていた。

私はこれをとても自己中心的だと感じた。レイプといった自分ではコントロールできない問題と違って、自分が避妊を行えば100%とは言わないがコントロールできた妊娠である。避妊薬を買うお金がないのならセックスをしなければよい。

中絶という選択肢はあるべきだと思うが、自分の愚かさのツケを胎児に支払わせたことを、自分とパートナーとで悔いるのではなく、あたかも女性の当然の権利だといわんばかりの語り口に違和感を覚えたのだ。

なので、私は、この話題が扱われていた掲示板にそのようなことを書き込んだ。さすがにこれはどうなのかと思った、というような内容をだ。

すると、私は「~イスト」と聞いたこともないレッテルを貼られる羽目になった。レイプにより妊娠した場合であっても、母体が危険な状態でも、何が何でも中絶を悪とする宗教的なイデオロギーを持つ人、的な意味だとgoogleは教えてくれた。

私は無神論者なので、キリスト教も部活動も信仰していない。あくまで中絶に関しては、胎児の人権と母親の人権の間でどこをとるのか、という視点でしか考えていない。

 

トランプとヒラリーの選挙あたりから、アメリカを中心とする文化圏では色々不可解なことが多かった。

LGBTがなぜ突然あんなに燃え盛ったのかも私にはよく分からなかった。女性を"月経のある人"と呼ぶことについてJKローリングの以下のtweetが炎上した

‘People who menstruate.’ I’m sure there used to be a word for those people. Someone help me out. Wumben? Wimpund? Woomud? 

「月経のある人かぁ、確かそういう人を呼ぶ単語が昔あったよね。なんだっけ、Woumben?Wimpund?Woomud?だっけ?』

当然womanである。炎上した事実だけ素直に受け取れば、価値観がアップデートされている人間たちの中ではどうも、女性を月経のある人と呼ぶのが「正しい」ということらしい。まぁ、アップデートにはバグが付き物なのでそういうこともあろう。

 

またBLMもそうだ。過去には妊婦に銃を突きつけたこともある前科6犯のフロイドは金色の棺に入れられ純白の馬車で墓地へ運ばれた。

あれが警察官による殺人だったのは疑いの余地もないし、BLMの主張も正しい。ただ、過去の犯罪をさも最初からなかったかのように聖人として扱う感覚は恐らく日本人はないのではないか。

 

今回この『キャンセルカルチャー アメリカ、貶めあう社会』を読んで、そのあたりが色々と腑に落ちた。

この本によれば、アメリカでは南北戦争前夜とまで言われるほど分断が進行している。

政治的分極化は、民主党・共和両党の所属議員、支持者の政治的立ち位置がどんどん離れていくだけでなく、両党内の同質性(凝縮性)が高くなることでもある。重なる部分もあった二つの政党間の距離が広がるだけでなく、党内の政治的な触れ幅も少なくなることである。

共和党民主党も相手に対抗するために団結を始めた。相手に対抗するために、自分の陣営に属している意見は自分の意見のように無条件で支持し、相手の陣営に属している意見は共通の敵あるかのように無条件に反対する。

ある議題に関しては民主党寄りだがある議題に対しては共和党寄り、という人間はどちらの陣営からも敵視されてしまう。

先の例で言えば、民主党支持者にとっては妊娠中絶は例外なしに女性の権利として認められなければいけないし、共和党支持者にとっては例外なしに禁止されなければならない。

 

こんな情勢下にあって、私の妊娠中絶に関する意見は、自称リベラルで価値観がアップデートされてる方から見れば共和党寄りと映ったのであろう。だから私はそんな人にとっては、共和党の支持母体であるキリスト教原理主義者であり、恐らく全米ライフル協会を支持していて、国民皆保険には反対派で、白人至上主義者であり、小さな政府を支持していて、ワクチン反対派であり、マスクもしない人間でなければいけないのだ。

LGBTもそうで、リベラルな方から見れば、同姓婚に賛成していようが、女性を月経がある人と呼ぶことに違和感のある人は一律に性的マイノリティー差別主義者である。

同様の理由からBLMを支持している人間にはフロイドは無条件で聖人でなければならない。

 

こうした論争は本来日本に関係のない話である。人類を寄りよい方向へ導くために戦っているリベラルな戦士や保守の戦士の物語ではなく、ただアメリカの分断が引き起こした選挙戦争の流れ弾でしかない。

リベラルなら無条件にこういう意見を持っていて、保守ならこういった意見を持っているはずだ、という2属性を前提とした議論など何の価値もない。

問題は、こういった問題を自分で理解する脳みそもないのに日本に持ち込んでくる馬鹿の存在である。

こういった連中は自分が最先端で改良された価値観を手に入れていて、違う意見を持つ人間は無条件に古い人間だと考えている節がある。twitterに多く、頭が悪いために長文が読めないので、ここまで出張ってきて攻撃をかけてくることもないと踏んでいるのだが。

 

 

作者の前嶋氏は、白人の人口が全体の50%を割り、移民の比率が高くなるにつれてなんだかんだ乗り越えるのではないかと結んでいたがどうだろうか。

アメリカには州法がある。たとえば、自分が住んでいる州で中絶が禁止され、さらにそれがどうにも逆転できないほど民主党支持者の比率が低くなれば、恐らく中絶が禁止されていない民主党支持者の多い州に移動したりするのではないか。

そうした結果、州によって民主党共和党主義者が別れていけば、まさに南北戦争の再現とはならないだろうか。

 

タイトルはイマイチな感じだったが、とても勉強になる本だった。